scene2 国中が一時的にお祭り騒ぎ
王都の中央広場は、朝から異様な熱気に包まれていた。
最初は、小耳にはさんだ噂話だった。
「勇者リオが魔王を倒したらしいぞ!」
その声が、瞬く間に市場の魚売りの女将へ、
そこから香辛料屋へ、
そして旅商人たちへと伝わり、
気がつけば町中が同じ話題で沸き立っていた。
「ついに平和が戻った!」「これで夜道も怖くないな!」
子どもたちが石畳を駆け回り、
パン屋は売れ行きの良さに嬉々として追加のパンを焼き上げる。
宿屋では、荷物を下ろした冒険者が真っ先に受付へ顔を寄せていた。
冒険者
「本当か?魔王が倒れたって!」
受付嬢
「ええ、公式広報が出たらしくて……もう町中その話で!」
その一方、酒場はというと――すでに混沌の渦にあった。
◆
「おい、樽をもうひとつ運んでこい!今日は祝杯だ!」
「勇者リオに乾杯だ!」
「いやー、あの子が魔王をねえ……時代だな!」
誰が言い出したのかも不明なまま、
“勇者勝利祝いの宴会”が勝手に始まり、
酒場中の客が全員立ち上がってジョッキを掲げる。
歌い出す者、踊り出す者、なぜか剣を振り回し始める者まで現れ、
店主は頭を抱えながらも笑顔を崩せない。
店主
「……壊すなよ?壊すなよ!?いや壊すんじゃねぇ!!」
◆
町中には、即席で作られた旗が乱立する。
布に絵の具をぶちまけただけのものから、
器用な裁縫屋が徹夜で縫い上げた立派な幕まで。
「ありがとう勇者リオ!」
「我らが英雄に祝福を!」
そんな言葉が風にたなびき、
いたるところで太鼓や笛の音が鳴り響く。
◆
その喧騒が王城にも届いた頃。
王太子レオンハルトは、執務室の窓から街の様子を眺めていた。
レオンハルト
「……まあ、国が元気ならいいか」
本音では「まだ確認してないのに勝手に盛り上がるなよ」と思っていた。
しかし、民が笑い、店に活気が戻っている光景を前にすると、
その苦言も喉の奥で消えていく。
レオンハルト
「宰相の暴走だろうけど……うん、まあ……今日は好きに騒がせてやるか」
ため息とともに肩の力を抜き、
机上の書類をぱたんと閉じた。
――こうして王国は、
本当に平和が戻ったと信じ込み、
短い“祝宴の時代”へと突入したのであった。




