第十六話 宰相グラントがさらに混乱を加速 scene1 宰相の独断発動
王都の政務棟。
窓から差し込む光は柔らかいが、空気はやけにざわついていた。
王太子レオンハルトが「放置でいい」と言い残して執務室を出た――その瞬間からである。
廊下の奥で、宰相グラントは目を細め、ゆっくりと頷いた。
(なるほど……“放置でいい”ということは……
つまり“好きにしていい”ということだな)
彼はもともと、民を安心させるためなら多少の事実の歪曲は必要だと本気で信じている男だった。
グラント
「国民は真実よりも“聞きたい話”を聞きたい。
なら、我々が用意してやらねば」
側近の文官が、おずおずと書類を抱えて近づく。
文官
「宰相閣下、勇者勝利説はあくまで噂でありまして……
確認が必要かと――」
だがグラントは、手をひらりと振った。
グラント
「確認してどうする。
もし魔王が勝っていたら困るだろう?」
文官
「……え、困りますが……それは“現実”として……」
グラントは胸を張り、堂々と断言した。
グラント
「事実より安定だ!」
文官
「安定ぃ!?」
聞いたこともない理論に文官は目を丸くするが、宰相はもう止まらない。
・“勇者リオ、魔王アザルを討伐”という文言
・祝賀ムードを煽る見出し
・王家の印を大きくあしらった公式文書
次々と指示が飛び、文官たちは半泣きになりながら筆を走らせた。
グラント
「魔王が死んだと言えば皆喜ぶ。
ならそれが国の答えだ!」
その声がホールに響く頃には――
王都中に貼り出す公式広報が、すでに完成していた。
「勇者リオ、魔王を討ち滅ぼす!
世界は再び安泰!」
事実確認?
そんなもの、宰相の辞書には存在しない。
こうして王国は、
勇者が村で草を刈り、魔王が子ども相手に薬草講座をしているとは露ほども知らないまま、
“勝利宣言”を大々的に発表してしまったのであった。




