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何もしたくない魔王と勇者のスローライフ やる気のない世界の中心で  作者: 南蛇井


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scene5 市民の混乱の連鎖

王都の中央広場。

市場帰りの人々でにぎわう午後、

“噂”という名の怪物はすでに市民の間を駆け抜けていた。


最初に声を上げたのは、荷車を引いた商人風の男。


市民A

「聞いたか!? 勇者が勝ったってよ!

 魔王、討ち滅ぼされたんだと!」


その言葉に、周囲がざわりと揺れる。


しかし別の方向から、否定の声。


市民B

「何言ってんだ。魔王が世界を支配したらしいぞ!

 うちの叔父が、魔族に詳しい旅人から聞いたって!」


市民A

「お前の叔父、去年は“山が歩いた”って言ってたろ!」


市民B

「いや今回は本当なんだって!」


その横で、青果を抱えた女性が首をかしげる。


市民C

「……え? でも普通に平和じゃない?

 魔王に支配されたなら、もっとこう……地獄っぽくなるのでは?」


すると、隣にいた妙に不安げな男が震える声でつぶやいた。


市民D

「……気づいてないだけで……すでに支配されてるのかも……

 “平和に感じさせる魔法”とか……」


市民C

「そんな便利な魔法あるの!?」


市民A

「もし魔王が勝ってるなら、なんで城は普通に動いてるんだよ!」


市民B

「逆に勇者が勝ったなら、どうして帰ってこないんだ!」


議論はどんどん謎の方向へ転がり、

気づけば“事実”など誰も求めていなかった。


そして――

いつの間にか、広場にいた全員が

ひとつだけ共通の結論にたどり着いていた。


市民A

「……まあ、どっちも王都に来ないし」


市民B

「平和だから今は大丈夫ってことだな」


市民C

「来ない=安全、でしょ」


市民D

「そういう……ことか……(納得したようで全然していない)」


こうして、王都の混乱は“根拠のない安心感”とともに、

妙に落ち着いた形で市民の間に浸透していった。


――勇者が勝ったという噂も、

――魔王が支配したという噂も、


どちらも「まあ今は平和だからよし」という結論に吸収される。


この瞬間、世界は静かに勘違いを積み重ねていった。

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