scene2どの地域を征服“したことにする”か
マギルが、いつもの無表情で手元の書類を整えると、
会議室に紙が擦れる乾いた音が広がった。
魔王軍会議で、唯一“それっぽい”瞬間である。
「本日、征服したことにする候補はこちらです」
配られた紙には、征服候補というにはあまりに平和的で、
そして雑すぎる理由が並んでいた。
・エルネスト国:近頃、収穫祭で忙しそう
・ヴァローナ連邦:書類上、去年一度“征服済み”扱いだが、誰も覚えていない
・メルタリア領:地図に描くのが面倒なので、今回は見送り
メレーナは編み針を止めもせず、目だけで書類を追いながら言う。
「A国は今、お祭り中よ? 邪魔しちゃ悪いわ」
黒い糸で編まれるマフラーは、魔族のものとは思えないほど可愛らしい。
クッションに寝そべったままのグロウルが、片手だけ挙げる。
「……Bでいいんじゃねぇかな……
去年の書類、使い回せるし……」
机の上のプリュが、控えめにぷるぷる震える。
それだけで発言したことになる。
マギルが通訳するでもなく、全員がなんとなく理解する。
(スライム語:わたしはどこでもいい)
アザルは、まるで授業中にあてられた学生のように、
そっと小声で言った。
「……じゃあ、B連邦で……」
マギルは深々とうなずき、すぐに書類へ記入を始める。
「承知しました。
では本日、我が軍は“書類上のみでB連邦を征服”とします」
その瞬間、会議室の空気がほぐれた。
全員「ありがたきこと……!」
その声には、
“今日も誰も戦わなくて済む”
という深い安堵が滲み出ていた。
魔王軍の会議は、今日も平和そのものだった。




