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scene5 村人たちとの距離が縮む
日が傾き始めた頃、村の道を歩くリオに声が飛んだ。
村人Aが肩に籠を担ぎながら笑う。
「リオ君、明日の収穫頼むよ。あの畑、君がやると早いんだ」
リオはもう、驚かない。
むしろ当然のように、軽く手を上げて答えた。
「任せて」
その返事は、かつて戦場で仲間に向けたものとは違う。
もっと穏やかで、ほぐれた声だった。
少し離れた場所では、アザルが村人Bに呼び止められていた。
「アザル君、この薬草乾燥しといてくれない?
君がやると香りがよくなるんだよ」
「はい、分かりました」
アザルもまた、ごく自然に受け取る。
相手の目に“魔王”の色はない。
ただの“器用で優しい青年”として見られている。
広場を横切ると、若者たちがふざけながら声をかけてくる。
「リオもアザルも、ずっとここに住めばいいのに〜」
「……どうだろうな」
「……ふふ、検討しておきます」
二人は苦笑した。
だが、その笑みの奥で、胸の奥がぽうっと温かくなる。
誰も恐れない。
誰も縛らない。
誰も、過剰に崇めたりもしない。
ただ当たり前のように名前を呼び、
ほんの少し働き、ほんの少し頼られ、
そして「また明日」と手を振られる。
村人として扱われる――
その自然さが、二人にとっては何より特別だった。




