scene2 子どもたちの師匠アザル
村の広場に、朝の光がまだ柔らかく差し込んでいた。
中央の長椅子を机代わりにして、アザルが薬草を並べている。
色とりどりの葉、乾燥させた花、土の香りを残した根。
どれも彼にとっては馴染み深い道具だが、子どもたちにとっては小さな宝物のようだった。
「これは――毒を薄める働きをする葉だ。触るときは……はい、手袋を忘れない」
アザルは淡々と説明しながら、隣に立つ小さな男の子に手袋を渡した。
その声は驚くほど柔らかい。
魔王時代に見せていた、威圧を含んだ声とはまるで別人のようだ。
子どもたちは真剣そのものだった。
目を丸くして、アザルの手元を追いかける。
一人の少女が小さくつぶやいた。
「アザル兄ちゃん、すごい……!」
その無邪気な賞賛に、アザルの動きが一瞬止まる。
まるで不意に胸を撃ち抜かれたかのように。
しかし次の瞬間、彼は少し視線をそらし、照れ隠しのように子どもたちの頭を撫でた。
「……覚えておくといい。困っている誰かを助けられる」
子どもたちは嬉しそうに頷き、また薬草に向き直る。
その小さな背中を見つめながら、アザルの胸に静かな感慨が広がった。
(こんな穏やかな時間を過ごす自分がいるなんて……
昔は思いもしなかったな)
かつては戦いと支配しか知らなかった自分が、
今は子どもたちに囲まれ、笑われ、頼られている。
広場を通り抜ける風がハーブの香りを運び、
アザルはそっと目を細めた。
その表情は――
もう、かつての“魔王”とは似ても似つかないほど優しかった。




