第十四話 徐々に定着 ―「戻らなくていいかもしれない」 scene1 朝の光と土の匂い
朝の霧は、白い薄布のように村を包み込んでいた。
やがて太陽が山の端から顔を覗かせると、その薄布は静かに溶け、畑の土の上に柔らかな光が落ちる。
リオはその光の中に立っていた。
鍬を握り、土を踏みしめる。
少し湿った土の感触が、靴底越しにじんわりと伝わってくる。
最初はこの感触が好きではなかった。
重くて、ぬるついて、戦場の地面のように扱いやすいものではなかったから。
しかし、毎日触れるうちに、その温度と匂いを「生きている」と感じるようになった。
鍬を振り下ろすたび、土がほどよく割れ、朝の光を受けて小さな粒子がきらめく。
その瞬間の静かな満足感が、胸の奥に爽やかに広がる。
「リオ君、腰使いが上手くなってきたな」
背後から声がした。
振り返ると、村の老人が口元を緩めて立っていた。
大きな戦功でも見たかのような、誇らしげな表情だった。
「……え、あ、はい。ありがとうございます」
リオは鍬を少し持ち直し、照れくさそうに頭を下げた。
褒められることは嫌いではない。
だが、戦場での称賛は「強いから」「役に立つから」という条件つきのものだった。
この村での褒め言葉は違う。
ただ「リオ君ががんばっているから」という理由で向けられる。
それが胸にじんわり染みる。
(……こんな風に褒められるの、いつ以来だろう)
ふと考えた瞬間、胸の中に小さな温もりが灯った。
鍬を握り直し、リオはまた土を割る。
朝日が畑を照らし、そこに立つ彼の背中を、穏やかな金色に染めていた。




