scene3 宿屋マーヤ、恋人部屋を推す
村の中心、古い木造の宿屋。
昼下がりの光が差し込み、カウンターの奥から女将・マーヤの明るい声が響く。
「いらっしゃーい! あら、リオ君とアザルちゃんじゃない!」
買い物袋を下げた二人に、マーヤは嬉しそうに手を振る。
この村で一番のおしゃべり好きで、そして――
“村で一番、人の恋路に敏感な女神”とも噂されている。
リオ「少し休憩しようかなと思って……」
アザル「パンを買ったので、お茶だけ……」
「はいはいはい、わかったわかった。
で、二人の部屋の件なんだけどね?」
マーヤの声色が、がらりと変わった。
完全に“恋バナモード”である。
「たまたま今日ね、カップル向けのお部屋が空いたのよ〜。
ほら、ベッドがこう……近めで……
窓から夕陽がふたりを照らすの……!」
リオ「いや、必要ないですから!」
アザル「そ、そういうのじゃないので……!」
マーヤは二人の反応などお構いなし。
手元の帳簿を開き、指でなぞりながら続ける。
「じゃあさ、ベッドをくっつけとこうか!
ほら、万が一寒くなった時にね? ね?」
リオ「くっつけません!!」
アザル「絶対に違います!!」
二人の声が完全にハモる。
そしてハモったことに気づき、同時に固まる。
……そして、同時に耳まで赤い。
それを見たマーヤは、口元をにやりと吊り上げた。
「はいはい、青春ねぇ〜♪
否定が元気なのは仲がいい証拠よ〜」
リオ「ち、違いますってば!」
アザル「……違います……(小声)」
「はいはい、ごちそうさま〜」
ふたりは逃げるように宿屋を出た。
外に出ると、夕風がふわりと吹き、沈黙が落ちる。
リオ「…………」
アザル「…………」
どちらも口を開かない。
だが、横顔はそろって真っ赤。
村の人々の素朴すぎる親切は、
魔王と勇者という“戦場の住人”だったふたりには――
あまりにも、甘くて、刺激が強すぎた。




