scene2 薬草師ルカが魔王に栄養相談
村外れ、小さな丘に寄り添うように建つ薬草小屋。
乾燥中の葉が天井から吊るされ、ほんのり甘く、少し苦い香りが満ちている。
アザルは静かに扉を開けた。
「すみません……薬草を少し……」
カウンターの奥で薬草を束ねていたルカが顔を上げる。
若いが、“村の健康は私が守る”という気迫をまとう薬草師だ。
「あ、アザルさん! いらっしゃい」
笑顔を見せた瞬間――
ルカの目が、すっと細くなる。
「…………アザルさん」
「……はい?」
じり、と距離を詰められる。
アザルは無意識に後ずさる。
ルカは腕を組み、ため息をついた。
「これは……完全に栄養足りてない顔ですね」
「えっ……あの……」
「血色も薄いし、魔力の巡りも悪い。
毎日魔力使う人が、この食生活はアウトです」
「しょ……食生活……」
“魔王”だった頃、誰もそんなこと指摘しなかった。
むしろ「恐れ多い」と言われ、アザルの健康を気にした者など一人もいない。
そのギャップに頭が追いつかない。
ルカは手を止めず、カゴの中に食材を放り込みながら言い続ける。
「魔王様って、魔力消費すごいんですよね?
だったらもっと食べなきゃ。これ基本。常識」
「常識……?」
「はい、はい、これ!」
ルカは紙切れをアザルの胸に押し付ける。
『魔力回復に効く食材リスト
・ベリー類
・黒豆
・干しキノコ
・魔草の若葉(少量)
・ハチミツ入り乳飲料』
アザルは呆然とした。
(……村人にここまで心配される魔王って……
人生で初めてなんですが……?)
「いいですね? 毎日食べる!」
「は、はい……」
どこか召喚獣に誓約を結ばされた気分で、小屋を出る。
家に戻り、メモをそっとテーブルに置いた――
ところでリオが帰宅してきた。
「ただい……あ、それ何?」
「あっ、え、その……」
リオは紙を手に取り、黙読する。
『魔力回復に効く食材リスト』
そしてゆっくりアザルを見た。
「……アザル。ちゃんと食べような?」
「~~~~~っ!!」
耳まで真っ赤に染まる。
村の“健康第一”文化。
その優しさに――
魔王アザルだけが、まだついていけずにいた。




