第十三話 村の日常エピソード ― 「この世界の日常はやたら温かい」 scene1 鍛冶屋グランに草刈り鎌を頼む勇者
――ガン、ガン、ガン!
午前の村に、金属を叩く鋭い音が響いていた。
鍛冶屋グランの店先では、火花が弾け、むっとした熱気が漂っている。
リオはその前に立ち、汗をぬぐいながら小さく息を吐いた。
(……草、強すぎるだろ……)
村の畑仕事を手伝った彼は、戦場以上に激しい“緑との戦い”に敗北し、ついに鍛冶屋へと駆け込んできたのだ。
「おう、リオ! いいところに来たな」
グランがハンマーを置き、豪快に笑う。
「今日は剣の手入れか? それとも新しい武具の相談か?」
「えっと……その……」
リオは言いにくそうに、背中に隠していたものをそっと差し出す。
銀色に光る――
草刈り鎌。
グランの表情が固まる。
「……勇者が……草刈り?」
「い、いや、ほんとに強いんですよ、この村の草……!」
必死に訴えるリオの声は、なぜか魔物より草のほうが脅威であることを物語っていた。
グランはしばし黙り込み――そして深々と頷いた。
「……わかるぜ」
「え?」
「腰をやられたことがある。あれは魔物より手強い」
やたら真剣な表情に、リオは返す言葉を失う。
グランは鎌を受け取ると、ひっくり返して刃を見つめ、唸った。
「これはダメだな。草に勝てる顔してねぇ」
「草に勝つ顔……?」
「お前にもあるだろ、戦場での“本気の目”ってやつ。刃物にもあるんだよ」
そう言ってグランは、鍛冶場の奥へ鎌を持ち込み、炉にかけ始めた。
「勇者が草と戦うなら、俺も鍛冶屋として本気で応える。
――草に特化した鎌、作ってやるよ」
「……なんか、それ、すごくありがたいです……!」
しばらくして渡された鎌は、輝きが違った。
リオは勇者の剣より丁寧に布で包み、背負って帰る。
村の通りで、農具を担いだおばあさんが声をかけた。
「勇者さん、今日も草と戦ってんのかい?」
「はは……まあ、そんな感じです」
おばあさんは妙に誇らしげに頷き、去っていった。
――勇者であろうと魔王であろうと、この村では草が敵。
その事実を、リオは深く理解しつつあった。




