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何もしたくない魔王と勇者のスローライフ やる気のない世界の中心で  作者: 南蛇井


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scene5 小さな幸せの積み重ね

――夕暮れ時、森の外れにぽつんと建つ小さな家。


薄紅色の空を背景に、窓からこぼれる橙の灯りが、まるで家そのものが呼吸しているかのように温かく揺れていた。


家の中では、素朴な木のテーブルに、湯気の立つ皿が並んでいる。

リオが不器用ながらも一生懸命切った野菜は、形こそ揃っていないが、どれも瑞々しくて愛嬌があった。

その隣には、アザルが丁寧に淹れた薬草茶。ほんのり甘い香りが部屋に満ちている。


リオは椅子に腰掛け、窓の外にぽつぽつ灯り始めた村の灯を眺めながら、ふと息を吐いた。


「……なんか、いいな。こういうの」


ぽつりとこぼれた言葉は、暖炉の火のはぜる音よりも静かで、けれど確かな温度を持っていた。


向かい側のアザルは、少し驚いたように瞬きをし、それから胸に手を当てるようにして小さく頷く。


「……はい……その……すごく……」


言葉は最後まで上手く続かない。

けれど、その頬の赤みと揺れる睫毛が、何よりも雄弁に気持ちを語っていた。


ふたりはそれ以上何も言わない。

言葉にしてしまうと、壊れてしまう気がしたから。


ただ、心の奥でそっと同じことを思う。


――こんな幸せがあったんだ。


日々のなかで見過ごしてきた、小さな温度。

静かな食卓。

同じ時間を囲むぬくもり。


それらは大きな劇的さはない。

しかし、知らぬ間にそっと胸に積もり、優しく息をさせてくれる。


その感動は、気付かれないまま、毎日すこしずつ、静かに積み重なっていった。

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