第十二話 同居生活スタート ―「二人で暮らすって……楽しい」 scene1 . 家を借りる ― マーヤの押しの強さに敗北
宿屋の女将・マーヤは、二人を見るや否や手をぱんっと叩いた。
「はいはい、ついてきて〜! 空き家がね、ほら、何軒かあるのよ。
で、これが一番おすすめ。“ちょうど恋人部屋”サイズ!」
恋人部屋、という単語だけが村の静寂にやけに響く。
リオとアザルは、目を合わせて同時に赤くなった。
「こ、恋人じゃないです」
「違います!」
だがマーヤは、二人の必死の否定を完全にスルーして、扉をがちゃりと開ける。
中は、木の香りがふわりと立ちのぼる一部屋+小さな台所。
朝日が差し込む窓の外には畑と丘が見えて、風が気持ちよさそうに草を揺らしていた。
「ね? ね? ここ絶対いいわよ〜。二人で住むならぴったり!」
「いや、だから僕たちは――」
「ま、まあ落ち着いて、マーヤさん……!」
「はぁい、はいはい、否定は聞いたわよ〜」
マーヤは手をひらひらさせ、全く聞いていない様子で続ける。
「で、どっちが料理係やるの?」
リオとアザルは、揃って叫んだ。
「話聞いてます!?」
しかしマーヤは全く動じない。
むしろ横からは掃除用具や布団が運び込まれてくる。
“二人がここに住む”という前提で、村の人たちが完全に動いている。
大軍の進行を止めたことのある勇者。
百の魔族を従えていた魔王。
そんな二人が――
たった一人の女将の“平和な圧”に押し負けていた。
気がつけば、夕日が家の床に伸びている。
荷物は部屋の隅に置かれ、窓から柔らかい風が吹き込む。
リオとアザルは、並んで座り、同時にため息をついた。
「……なんか……住むことになりましたね」
「……ええ……気づいたら……」
しばらく沈黙。
そして、ふたりは控えめに、心の中だけで思う。
(……でも、ちょっと……悪くないかも……)
その想いは、二人とも同じだった。




