scene2 出迎え:肩書きが消え去る村
谷間に寄り添うように広がる小さな村へ、リオとアザルが足を踏み入れた瞬間だった。
畑の向こう、ゆったり揺れる麦の穂の影から――
鍬を担いだ老人が、ひょっこり姿を現した。
陽光に照らされ、しわだらけの笑顔がいっそう明るく見える。
オットー
「おやぁ、新しい旅人さんかい?
よく来たねぇ。この村は風がうまいだろ?」
あまりに気安い声に、リオは思わず言葉を詰まらせる。
リオ
「あっ、えっと……」
アザルも肩をすくめながら続く。
アザル
「わ、私たち、その……名乗るべきか……」
しかし老人は、ひょいと手を振って彼らの言葉をふわりと断ち切った。
オットー
「ああ、自己紹介?
魔王だの勇者だの……肩書きの話なら聞かなくていいよ。
ここでは関係ないからねぇ。
みんなただの“人”なんだよ」
リオ & アザル
「…………え?」
二人の間に、戸惑いの沈黙が落ちる。
リオは、幼いころから“勇者”であることで生き方も役割も縛られてきた。
名を呼ばれるとき、かならず肩書きが前に付いた。
アザルも同じだ。“魔王”という名と力だけで恐れられ、理解されることはなかった。
そんな二人にとって――
“肩書きが関係ない”と言われることは、生まれて初めてだった。
アザル(心の声)
(……肩書きに怯えられない世界……
本当に、あったんですね……?)
リオ(心の声)
(勇者じゃなくてもいい……
ただの“リオ”って、呼ばれる場所……)
吸い込まれそうなほど柔らかな村の風が、
二人の胸にふわりと広がる。
まるで、心の重りまでも溶かしてしまうかのように。




