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scene5 逃避行スタート
森の奥へ向かうふたりの背中は、どこか不思議なほどよく似ていた。
本来なら――片や魔王、片や勇者。
背負う使命の重さは、世界の天秤を揺らすほどのはずなのに。
けれど今のふたりの姿は、どう見ても、
「仕事をサボってカフェに向かう社会人二人」
……その程度の、ゆるく並んだ背中だった。
だからといって、世界は怒るどころか、むしろ優しく受け入れていく。
霧は道をすっかり隠してしまわぬ程度に、ふたりの進む先をふんわりとぼかし、
遠くの茂みでは魔物が「ポヨン」と律儀に存在を知らせ、
風はまるで「どうぞ」と背中を押すようにそよぎ続けた。
こうして――
“戦う気ゼロ同士”による、奇跡の逃避行が幕を開ける。
ふたりはまだ知らない。
この軽い一歩が、のちに世界の歴史の方向すら変えてしまうことを。




