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scene4 追手(という名の気弱な見送り)より先に
ふたりは、背後にいくつも揺れる気配があることなど露ほども知らず、ただ静かに、森の奥へと足を踏み入れた。
夜明け前の霧は薄い羽布のように漂い、木々の間をさまよいながら、ふたりの肩にそっと触れては流れていく。
「どこへ行きましょう」
アザルが小声で問う。まるでささやきが霧を驚かせぬように気遣っているかのようだった。
「……とりあえず、誰も戦わない所」
リオは息を吐くと同時に、胸の重石をひとつ森に置いてきたような気がした。
アザルはぱっと花が咲くみたいに微笑む。
「素敵……!」
ふたりの声が混ざり合い、霧の中で小さく輪を描く。
その笑いは決して大きくないのに、森の空気を確かに柔らかくした。
肩に入りこんでいた緊張がほどけていく。
足取りも、これまでの苦労を置き去りにするように軽くなる。
――気弱な追手たちが、木々の陰から「無事で……」と祈るように見送っているとも知らずに。
ふたりはただ、争いのない場所を目指して歩き出した。




