第十話 2人、逃亡を決意 scene1 きっかけ:同時のため息
休憩所には、風よりも柔らかな霧が流れ込んでいた。
揺れた木漏れ日が、足もとの苔にゆっくり模様を描いては、霧に溶ける。
ここが「戦場」扱いされているなど、とても信じられない。
アザルはベンチの端に、リオは少し離れた切り株に腰を下ろし、
互いに視線を交わすでもなく、ただ同じように空を眺めていた。
そして――
ふたり同時に、深い溜息が落ちる。
その音さえも霧に吸われて、森は静かだった。
アザル(心の声)
(もう仕事したくない……午後の激励式、消えろ……。
あれ、何回目なんだろう……みんなに笑顔を向けるの、疲れる……)
リオ(心の声)
(戻りたくない……あの温泉街で昼寝したかっただけなのに……
なんで俺はこんな森まで逆方向に歩いてんだ……)
数秒の沈黙。
ふたりは同時に、ほんの少しだけ顔を動かして、
視界の端にある“相手”を認識する。
気まずさではなく、
同じ種類の疲れをもつ者同士特有の――妙な安心感。
リオは、ぽつりとつぶやいた。
「……戦わなくて済む場所、どこかにないかな」
その言葉は、迷子の青年のつぶやきにしては、
あまりにも真剣で、あまりにも切実だった。
アザルは、驚くほど自然に返す。
「……あったら、行きたいです」
静寂の中で、ふたりの声はまるで同じ重さを持って響き、
ふたりの視線が重なって――
同じ方向へと吸い寄せられるように向いた。
森の奥。
霧が濃く、光がほそく、
どこか秘密めいた道。
まるで、その先にだけ答えが隠されているかのように。
木の葉の揺れる音が、そっと囁く。
――行ってもいいよ、と。




