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scene4 リオの姿が見えない
湯けむりの立ち込める温泉街。
ひと息つくために立ち寄った休憩宿の縁側で、ガルドは湯上がりの麦茶をぐいっと飲み干した。
ふと、周囲に目を向ける。
「……あれ、リオは?」
言った瞬間、返事は即座に返ってきた。
ミナが椅子に座ったまま、つま先でちゃらんと鈴を鳴らしながら即答する。
「道に迷ったんでしょ」
まるで「今日の天気は晴れですよ」と同じくらい自然な調子だった。
続けてシルフィが、湯気の残る髪をタオルで拭きながら口を開く。
「たぶん、地図逆さに持って歩いていきましたよ。さっき」
ガルドは眉をひそめ、頭の中でその光景を思い出す。
「あー……やってたな……」
そう、つい先ほど。
リオは得意げに「任せて、宿までは私が案内する!」と宣言し――
その地図を、見事に逆さに持っていた。
誰も止めなかったのは、全員が“どうせ戻ってくる”と知っていたからだ。
湯気がふわりと風に流れ、三人は肩の力を抜いたまま、まったく焦る様子を見せない。
勇者がいないのに、空気は平穏そのものだった。




