scene3 しかしマギル自身も徐々に冷静になる
「マギル参謀長ー!」
声をかけられ振り向くと、部下Aがのんびりした足取りで近づいてきた。
「どうせ夕方には帰ってきますよ。
昨日だって『三時間だけ散歩』って言って七時間帰ってきませんでしたし」
「……それは確かにそうだが……」
肩をすくめるマギルに、別の部下Bがひょこっと顔を出す。
「帰ってきたら晩ご飯ですしね。
魔王様、晩ご飯の時間は絶対に守るタイプですし」
「うむ……それも、まあ……確かに……」
さらに部下Cが、スープをかき混ぜる姿勢のまま口をはさんだ。
「それに魔王様って、妙に“自力帰還率”高いじゃないですか。
遭難しそうで、絶対に遭難しないタイプと申しますか」
「……否定できん……!」
マギルは額に手を当て、ぐっと目を閉じた。
つい先ほどまで、「魔王様がいない!?」と焦りで心臓をひっくり返していた自分が、急速に恥ずかしくなっていく。
部下たちは、無言で“いつものことだ”という空気を全身から放っていた。
――そして事実、それは正しい。
魔王アザルが自由奔放すぎるのは、マギル自身が誰よりも知っている。
「……そうだな。
……まあ、夕方には……戻るだろう」
ようやく落ち着いた声を取り戻すと、部下たちはそろってほっとした笑みを浮かべた。
どこかで魔王がくしゃみでもしているかもしれない、
そんな程度の心配はある――しかし。
結局、「魔王不在の一日」も、魔王軍では“いつもの日常”として片付けられるのだった。




