scene2マギル、珍しく焦る
魔王城・中央ホール。
マギルは駆け足で戻ってくると、
手に持った記録板をバンッとテーブルに置いた。
「……魔王様がいない!?
今日は城外視察も予定に入れてないぞ……!?」
声が響く。
だが――集まった部下たちは、ぽかんとした顔で互いを見合わせただけだった。
部下Aが真っ先に口を開く。
「パン屋じゃないですか?
昨日、焼きたてのハチミツパンに“人生が変わる”とか言ってましたし」
部下Bはのんびり頬をかきながら、
「いやいや、草原で編み物でしょ。
あの膝掛け、まだ途中でしたよね。
魔王様、完成するまで寝ないって言ってましたし」
部下Cはさらに緩い推理を続ける。
「いっそ洞窟の奥で昼寝とか……
あそこ、意外と静かですしねぇ」
マギルは顔を覆った。
「なぜ……誰一人として……
“さらわれたのでは!?”と思わない……!」
部下A「え? だって魔王様ですよ?」
部下B「攫う方が気を使いそうですし」
部下C「むしろ攫われたら攫った側が困ると思いますよ。
寝場所探しとか、お茶の用意とか……」
マギルはぐらりとよろめき、頭を抱えた。
「……魔王軍よ……
もう少し緊張感を持っていただけませんか……!」
しかし、部下たちは同時にのほほんと頷くだけであった。
「まあ、夕方には戻ってくるでしょ」
「うんうん。お腹空いたら絶対帰ってきますよ」
「それか途中で買い食いしてるかも」
――魔王行方不明のはずなのに。
城に走るのは、不安ではなく “平常運転” の空気だけだった。




