第九話 魔王軍・勇者パーティともに混乱(※しかし緊張感ゼロ) scene1 マギル、いつもの“魔王昼寝ルート”を確認しに行く
魔王城・参謀長室。
書類に埋もれたデスクから顔を上げたマギルは、
壁に掛けられた簡易スケジュール表に目を走らせた。
――今日の午後は、特に外出予定なし。
つまり、アザルはどこか城内で昼寝しているはず。
マギルは深く息をつく。
魔王とはいえアザルは働きすぎるとすぐ疲れる。
“昼寝の安全確認”は、参謀長の重要な職務の一つだ。
「……では、いつものルートを回りますか」
半ば儀式のように、マギルは書類を閉じて立ち上がった。
●最初のポイント:講義室裏のクッション部屋
魔王城でもっともふわふわ率が高い部屋。
扉を開くと、整然と積まれたクッションの山が柔らかく香る。
マギル「……いない」
クッションには、今日使われた形跡すらない。
●次:温室のハンモック
陽光が差し込む温室には、アザル専用のハンモックがある。
マギルはそっと近づいて布を押さえた。
マギル「……温もりなし。未使用」
花の間を漂う甘い香りだけが残っている。
●最後:倉庫の毛布の山
ここは、アザルが“考え事をしながら寝る”場所としてよく使っていた。
積まれた毛布に小さな魔王が埋もれていることもしばしば…。
マギル「……ここにも、いない」
毛布はどれもきれいに畳まれている。
参謀長は腕を組んだ。
「どういうことでしょう……
講義室裏のクッションも、温室も、倉庫も空とは……」
昼寝ルートが全滅するのは、滅多にない。
アザルは、ふらりと姿を消したまま――
どの定番スポットにも帰ってきていない。
「……困りましたね、これは」
焦りをにじませながらも、
どこか“ああ、まただ”という諦めの香りも混じる、
そんな溜め息が、静かな廊下にこぼれ落ちた。




