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scene6 会話が一気にゆるむ
重かった霧が、ふっと軽くなる。
さっきまで張りつめていた“運命の対峙”みたいな空気は、
どこかに落とした手袋くらいあっさり消えていた。
アザルは、勇者の返事に安堵した途端、
堰を切ったように弱音をこぼす。
「ほんと……? よかった……。
実は、逃げてきたんです。城から……」
逃亡宣言。魔王の。
それを聞いたリオは、思わず苦笑してしまう。
この魔王、想像よりずいぶん人間くさい。
「俺も。道間違えて……いや、
そもそも戦う気なくて……」
「道間違えて?」
アザルが首を傾げる。
「方向音痴なんですよ。
人生単位で迷ってる気がするくらい」
「それは……お気の毒に……」
互いに“ほんの少し生活に疲れてる人間”同士の眼差しになる。
アザルは、確認するようにそっと尋ねた。
「戦う気ないですよね……?」
「ずっとないです……」
その瞬間。
二人の肩が、完璧に同じ角度でストンと落ちた。
霧の揺れすら同調したように、ふわりと沈む。
敵対関係。
宿命の対立。
勇者と魔王という肩書き。
――全部、ものの数十秒で蒸発した。
代わりに残ったのは、
“今日の仕事から逃げてきた者同士”の、
奇妙に心地よい連帯感だけだった。




