scene3 リオ、致命的方向音痴が炸裂
本来なら、もうとっくに温泉街へ戻って
ミナと合流し、朝から湯気ふわふわの饅頭を頬張っていたはずだった。
――なのに。
「……うん。これは絶対に道、合ってる……はず」
リオは自信満々の顔で地図を広げていた。
ただし、逆さまに。
森の風が地図の端をぱたぱた揺らすたび、彼は方向を要らぬほど確信してしまう。
(北は……こっち? いや、地図の“上”が北だから……えーと……)
どれだけ考えても、地図が逆さまでは正解に辿り着くわけがない。
しかも歩きながら、ミナから渡された
“温泉まんじゅう半額券”
が視界の端でちらちら揺れるものだから、意識は完全に脱線していた。
(やっぱり後で買い込もう。十個くらいイケる。
……あ、二十個でもいけるかもしれない)
と、妄想が広がったところで、ふと顔を上げる。
目の前には、古びた石碑。
どことなく不安を煽るデザインで、苔むした文字が読めそうで読めない。
リオは首をかしげた。
(あれ……この石碑……
見たことあるような……ないような……?)
三十分前にもここを通った気がする。
だが、自信は一ミリもない。
「……よし。休もう」
気づけば足はぱんぱんに疲れていた。
地図を丸めて腰に差し込み、リオは霧の薄い方向へ歩き出す。
森の中にぽつんとある“休憩所”――
誰かが置いた木のベンチと、謎の麦茶ポットがある、
あの平和すぎる場所へ向かって。




