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第八話 魔王と勇者、ついに会う(偶然) scene1 霧の緩衝森の雰囲気
霧の緩衝森は、世界で最も“戦場らしくない戦場”として知られている。
朝と夕方の気温差で生まれる薄い霧は、森の地面すれすれをゆっくり漂い、
差し込む光をやわらかくぼかしていた。
剣を抜き合う緊張感など微塵もなく、むしろ牧歌的な空気が満ちている。
木々の間では、魔物と人族が互いに気まずそうに視線をそらしながら、
のそのそと通り過ぎていく。
まるで“ここでは争いごと禁止”という掲示板でも立っているかのようだった。
古びた休憩所には、誰かが置いていった麦茶のポットがぽつんと置かれている。
冷えているのかどうかは分からないが、利用者は意外と多いらしく、
コップまで丁寧に並べられていた。
森の奥では、ウサギ型の魔物が「ポヨン、ポヨン」と跳ねる軽い音を響かせている。
そののどかな鳴き声が、
「ここは戦場ですよ」と誰かが真顔で言っても信じられない理由になっていた。
——本来なら“危険地帯”のはずの場所には、
ただ静かな、やさしい時間だけが流れていた。




