scene4枕元の“架空の戦果書類”
マギルが置いていった書類の束は、
魔王城の朝日に反射して淡く光っていた。
魔王の寝室に似つかわしくないほど、しっかりと整えられた書類だ。
アザルは布団の奥から、
布の隙間をわずかにこじ開け、
片手だけ外へ出す。
その動きは、まるで布団の意思に逆らうのが困難であるかのように重たかった。
枕元の書類の一枚目には、
見慣れた文章が、今日も真面目に並んでいる。
・「敵軍は士気喪失のため、勝手に退却した」
・「魔王軍は一兵も損なわれず」
・「和平のための形だけの勝利」
どれも空疎で、どこか笑える。
本気で戦う者が誰もいない世界が生んだ、
“架空の戦果”のテンプレートだ。
読む必要すらない。
読んだところで、内容が実際の世界に影響することもない。
これは言うなれば——
「今日も平和でした」と世界に提出するための証明書。
アザルは半目のまま、ゆっくり手を伸ばした。
その手には、小さな魔王印のスタンプ。
布団の中で温められていたせいか、持ち手がほんのりと暖かい。
ぽん。
魔王印が押されると、淡く赤い魔力の跡が書類に浮かび上がる。
それだけで、この世界は“魔王が征服を進めている”と認識する。
アザルは心の中で、低い声で呟いた。
(……これ押すだけで征服扱いになるの、便利だな……)
その声は、感心とも諦観ともつかない。
傍らで控えていたマギルが静かに告げる。
「いつも通り、世界は納得しますので」
口調は変わらないが、
その言葉には“今日も戦わずに済んで良かったですね”という、
どこか優しい響きがあった。
アザルはため息とともに布団に腕を戻す。
布団がその腕を再び吸い込み、
魔王の姿はまるで寝床に溶けるように沈んでいく。
静かな一室で、
魔王と参謀の間に流れるのは、
戦いとは無縁の、あまりにも穏やかな空気だった。




