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scene3 同時のつぶやき(遠く離れた共鳴)
夕暮れの空は、魔王城の上でも、湯雲の里でも、同じ色に染まる。
距離にすれば何百里。
互いの姿も声も知らない二人が――
奇妙なほど同じ思いを胸に抱えていた。
魔王城の高層テラス。
手すりにもたれたアザルは、指先に残った書類仕事の疲れを振り払うように、深く息を吐く。
「平和な場所に、逃げてしまいたい……」
その声は風に溶け、夕闇に紛れた。
一方、湯雲の里・展望温泉。
湯気の向こうで空を見上げていたリオもまた、静かに言葉を落とす。
「……戦わなくて済む場所で暮らしたいなぁ」
届くはずもない声。
見えるはずもない姿。
しかし――空の真ん中で、二つのつぶやきはほんの一瞬、重なったように感じられた。
まるで、世界そのものが二人の“本音”に一拍遅れて頷いたかのように。
この奇妙な共鳴が、数日後、思いもしない“邂逅”を呼び寄せることになるとは、
その時のアザルもリオも知る由もなかった。




