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scene6 不満を抱えつつも続く“ゆる平和”
魔王城の最上階。
アザルは窓辺に腰かけ、編みかけの靴下をくるくる回しながら、遠くの人族領を眺めていた。
(……世界の平和って……めんどくさい……)
魔王らしからぬ静かなため息がこぼれる。
今日も勇者との“形だけの戦闘日”が迫っており、
また派手に倒れ込む練習をしておかねばならない。
一方その頃、人族の城下町。
リオは報告書の束を前に、ペンを握りしめていた。
「勇者、森にて魔族を撃退した(※向こうが逃げてくれた)」
書きながら、心の声が漏れる。
(せめて……年間勇者活動、1回でよくならないかな……
森の入口で写真撮るだけの仕事、多すぎない?)
机に突っ伏したい気持ちを堪えつつ、報告書の最後に名前を書き込む。
けれども――
人族も、魔族も、商人も、兵士も、農民も。
誰一人、本気の争いなど望んではいない。
互いに“戦っているフリ”さえしていれば、
平和は続く。
食卓は賑わい、祭りは盛り上がり、
温泉も観光も商売も、すべてが穏やかに回り続ける。
その裏側には――
二人のやる気ゼロな“看板役”、
魔王アザルと勇者リオのささやかな苦労があった。
彼らのぼやきにも似た努力のおかげで、
世界は今日ものんびり優しいままなのだった。




