scene4 茶番の平和を壊そうとする勢力は?
――結論から言うと、ほとんど存在しない。
理由は明確で、極めて単純。
戦っても誰も得をしないからだ。
●戦いたくない兵士たち
魔王軍の若い兵士たちは、今日もゆるく剣を振っている。
その動きは、まるで風に揺られる草のように柔らかい。
「……ねぇ、隊長。
もし本当に戦争再開したら、俺たち死にますよね?」
「まあな。お前、最近体力テストで倒れたし」
「でしょ!? だからフリでいいんですよ、フリで!」
人族側の兵士も似たようなものだ。
「俺、農家継ぐ予定なんですよね……戦死とか絶対イヤです」
「わかる。オレなんか昨日、魔族の知り合いから干し肉もらっちゃってさ。
正直、もう敵って感じしないんだよな」
兵士たちにとっては、戦いよりも昼飯の話のほうがよほど重要だった。
●国の財務:絶対に戦いたくない
人族王国の財務局長は、国王に進言していた。
「陛下……戦争を再開すると、予算が五年分吹き飛びます」
「五年分!?」
「はい。武具製造費、遠征費、兵の給金、治療費……
おまけに後方支援まで含めれば、国が一度倒産します」
国王は顔色が青くなる。
「……では、今の“戦ってるフリ”のほうが……?」
「圧倒的に安く済みます。
紙代とインク代と、勇者様の旅費くらいです」
「紙とインク、偉大だな……」
魔王側も似たような事情を抱えていた。
「魔族国庫、もう戦争に耐えられません。
温泉街の税収のほうが安定してます」
「温泉街が我が軍を支える……それでいいのか……?」
「経済が回っているので問題ありません」
魔王は小さくうなずいた。
戦争より温泉のほうが国を救うらしい。
●商人:むしろ魔族が客
街の商人たちは、魔族が来るたびににこやかだ。
「いらっしゃいませぇ!今日はワイバーン用の大盛りシチューありますよ!」
「おお、人族の料理はうまいな!」
店主の胸中はただひとつ。
(……魔族相手のほうが儲かるんだよなぁ)
人族と魔族が争う理由は、もはや店のどこにも存在しなかった。
●農民:平和こそ収穫の基本
畑で働く農民たちも、戦争など望んでいない。
「戦なんか起きたら、作物踏まれちまう」
「魔族だって最近はいいやつ多いしなぁ。
うち、魔族の子どもが手伝いに来てくれたし」
「戦争より収穫のほうが大事だわ」
彼らの願いは、ただ普通に平和な暮らしをすること。
それだけで十分だった。
●そして、魔族側の問題
魔族はかつて恐れられた存在だった――はずなのだが。
「最近の若い魔族、みんな戦闘スキル落ちすぎじゃね?」
「そりゃ、平和で腹いっぱい食えるしなぁ。
昔みたいに命がけで狩りに行かなくていいんだもの」
「うちの子なんか、“剣より料理のほうが好き”とか言い出したぞ」
「平和すぎる……いや、いいことなんだろうけど……」
彼らはもう、戦う理由を完全に失っていた。
●こうして誰も望まない“戦争”
兵士は戦いたくない。
財務は金を出したくない。
商人は魔族も客にしたい。
農民は畑を荒らされたくない。
魔族はそもそも戦闘能力が下がった。
結果――
ほぼ全員が、茶番の平和を歓迎していた。
だから、この平和を壊そうとする勢力は、どこにも存在しない。
ただ一部の“仕事だけ増える立場”――
勇者と魔王だけが、静かに頭を抱えていた。




