scene2 共同で作り上げた“平和の茶番”
戦争が茶番になるまでには、いくつかの「現実的な理由」があった。
人族と魔族――かつて互いの喉元を狙っていた両者は、しかしある日を境に、じわじわと悟っていったのだ。
戦うって……コストが高すぎない?
まず単純に、金がかかった。
兵士の給料、鎧の修繕、武器の買い直し、治療費、遺族への補償金――。
戦いが一度起きるたびに、人族では財務官が蒼白になり、魔族では会計担当が角を震わせて嘆いた。
「これ以上兵器を作る予算はありません!」
「うちの部族、来年から税金上げてもいいですかね……」
そんな悲鳴が、戦う前から両国内を飛び交っていた。
そして、何より痛かったのは死者の報告だ。
本来は勇敢さの証として称えられるはずのそれが、長い年月の中で、ただただ胸を締めつけるだけの響きになった。
「また……若い兵が……」
「うちの部族の子が……」
人族も魔族も、もう耐えられなかった。
敵を憎むのではなく、悲しみの蓄積に怯えるようになっていた。
さらに、魔族側には特有の事情があった。
慢性的な食糧不足。
魔界は土地こそ広いが、土壌が痩せ、天候は荒れやすい。
そのため、まともな農作物が育たない地域が多く、魔族は長年飢えとの戦いを続けてきた。
だが――ふとしたきっかけから、人族との“密かな交易”が増えるようになった。
人族の商人たちが、こっそり魔族領に食糧を売りに来ていたのだ。
「魔族さん、今日も来てくれてありがとよ。野菜がよく売れるわ」
「こちらこそ。人族の保存パン、腹持ちがいいんだ」
いつの間にか、互いの敵意よりも、商売の利益のほうが大きく育ち始めていた。
それは人族側でも同様だった。
「魔族のお客さんってさ、食べる量多いから儲かるよな」
「うちの店なんて、魔族の鍛冶職人とのコラボ商品だぞ!」
今や魔族は重要な顧客層で、敵認定しづらい存在になっていた。
こうして、両陣営は静かに気づく。
『戦わないほうが得だ』
口には出さないが、誰もが同じ結論に至っていた。
そして、あの日。
人族の参謀長と魔族の軍閥長が、ひっそりと夜の草原で向かい合った。
「……本気の戦争、もう……やめません?」
「……実は我らも、そう提案しようと思っていたところでして」
二人は同時に安堵し、少し笑った。
こうして――
双方の利得で固められた、前代未聞の“平和の茶番”が生まれた。
表向きは「大戦続行中!」と叫び、
裏では「今日も茶番の戦闘ログだけ付けておきますね」と書類処理をする。
戦っている“フリ”。
それこそが、新時代の常識になっていった。




