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第六話 人族と魔族の暗黙の了解 scene1 長年続く「戦争のフリ」文化の誕生
かつて、人族と魔族は本気の戦争を続けていた。
大地は焼け、作物は荒れ、
国庫は底をつき、兵士たちからは笑顔が消えた。
人族の街でも、魔族の集落でも、
疲れたため息ばかりが夜空に上っていた。
――そんなある年のこと。
人族側の高官と、魔族側の参謀が、
誰にも見つからぬよう薄暗い廃教会で密かに向き合った。
最初に声を漏らしたのは、白髪の人族参謀だった。
「……その、率直に申し上げますが……
本気の戦争、やめません?」
魔族参謀は、ぽかんと口を開けた。
「言ったな、先に……!
言おうと思っていた……! うちも限界だ……!」
二人は思わず握手した。
その握手は、戦火よりもはるかに温かかった。
「お互い、大義名分は必要でしょうが……」
「うむ。だが戦果報告の紙だけあれば十分では?」
「では“戦ってるフリだけ継続する”ということで――」
こうして生まれた、奇跡の妥協案。
後に歴史書は、簡潔にこう記す。
この会談をきっかけに、
両陣営は本格戦争を放棄し――
代わりに“戦ってるフリ”を制度として整備した。
名付けて
「戦ってるフリ戦争制度」。
誰も傷つかず、
誰も本気にならず、
それでも一応“戦争中”という建前だけは保つ――
そんな茶番の平和が、静かに幕を開けたのだった。




