scene5 やる気ゼロな魔族偵察兵との遭遇
小鳥のさえずりと、ガルドの寝息だけが響く平和な森。
そんな昼下がり、藪の中で“ガササッ”と控えめな音がした。
リオはようやく背筋を伸ばす。
(来た……ついに……!)
しかし。
藪から現れたのは、黒いマントを着た“魔族偵察兵”。
……なのだが、目の下にクマを作り、姿勢は猫背、
どう見ても本気で仕事したくない若手である。
魔族
「あっ……ど、どうも……」
リオ
「あ……どうも……」
緊張感ゼロの挨拶が交わされる。
魔族は資料を確認するように小声で続けた。
「……えっと、本日は……こちらがびっくりして逃げたことに
しておきますので……」
「あ、助かります。
今ちょうど、お弁当中で……」
「いえいえ、こちらこそ……。
勇者様に“追い返された”という形で報告書を提出しますので……」
事務的。
あまりにも事務的すぎる。
それを横で聞いていたミナが、のんびり手を振った。
「ありがとね〜。びっくりしたフリしなくて良いよ〜?」
「い、いえ……業務ですので……!」
彼はさらに恐縮した。
一方ガルドは、寝たまま腕だけ上げて返事した。
「おう……がんばれよ……」
(たぶん夢の中で答えてる……)
そしてシルフィはパンをひと切れ差し出した。
「……よかったら……食べます?」
魔族
「ひゃっ、いえっ、そんな……!!
勇者パーティーから食べ物なんて受け取れません!!
敵対関係的に!!」
と言いながら、完全に“逃げるための姿勢”になる。
「そ、それでは失礼します!!
本日は“勇者一行の圧により撤退”ということで!!」
言い終わると、彼はカサカサと藪へ引っ込んでいった。
静寂が戻る。
ミナ
「いい子だったね〜」
ガルド
「……(寝息)」
シルフィ
「パン……受け取ってほしかった……」
リオ(心の声)
(なんだろう……これ……
戦いどころか、双方で“仕事の簡略化”を助け合ってる感じ……
……優しい世界なのでは?)
リオはサンドイッチをかじりながら、
この世界の“ゆるすぎる平和”に静かに戸惑うのだった。




