scene3 名物ハチミツパンケーキに感動
温泉街を出てすぐの街道沿いに、ひときわ甘い香りを放つ小さな店があった。
看板には誇らしげにこう書かれている。
《名物・雲のハチミツパンケーキ》
店に入るやいなや、テーブルへ運ばれてきたのは――
直径三十センチ、厚さ五センチのふわふわ黄金円盤。
あまりの存在感に、勇者一行は一瞬言葉を失った。
「……リオくん。
魔王城よりまずこれでしょ!!」
ミナが両手を掲げ、パンケーキを拝む勢いで叫ぶ。
ガルドは腕を組んだまま、真剣な表情で頷いた。
その表情は、魔王戦より深刻だ。
「魔王よりデカいぞ……これ。
倒す前に食っとくのが筋だろ」
「筋ってなに!?」
リオが思わずツッコむも、パンケーキの甘い香りに言葉の力が弱い。
シルフィはフォークを両手で持ち、まるで聖なる儀式のように目を閉じた。
「……女神よ……
この尊いふわふわに祝福を……」
「なんの祈り!?」
リオのツッコミも、もはや惰性である。
そして――
リオ自身も、ひとくち口に運んだ瞬間、負けを悟った。
「……これ食べてる場合じゃ……
いや、美味しい……美味しすぎる……!」
甘さに膝が抜け、勇者の使命感がふわっと蒸発する。
ミナはすでに追加のハチミツをかけながら言った。
「ねぇリオくん、魔王討伐ってさ、
甘いもの補給してからでもいいでしょ?」
ガルドも重々しく頷く。
「戦は腹が減ってはできぬ。
つまりこれは準備行動だ」
シルフィはしっとりした声で付け加えた。
「……パンケーキは……平和の象徴……」
リオは額に手を当てた。
(……はぁ。
こんなのに勝てる魔王、いないだろ……)
こうして、勇者一行の“魔王討伐”はまた一歩、
グルメ旅へと本格的に傾いていくのだった。




