scene2 温泉街でゆるゆる過ごす
湯雲の里――旅人を甘やかす湯けむりが街じゅうに漂う温泉地。
勇者一行が足を踏み入れた瞬間、ミナが弾けるように声を上げた。
「見てリオくん!! 湯上がりプリンが七種類もある!!
ほら、“極み卵”“白金ミルク”“幻のカカオ”……なにこれ、魔王城より豪華じゃない!?」
店先のショーケースにへばりつき、目を輝かせるミナ。
その横でガルドが腕を組み、うんうんと深く頷く。
「……ミナの言う通りだ。甘味は戦より尊い。
まずは舌を整えねぇとな」
「いや整える方向おかしいよね!?」
リオが控えめにツッコミを入れるが、二人の耳には届かない。
大浴場では、ガルドが肩まで湯につかって完全に溶けていた。
「ふぉおおおぉ……効く……。
魔王と戦う前に、身体のメンテは大事だ……」
「いや、今もう戦う気ゼロじゃん……」
リオは呆れたように湯の表面をぱしゃりと弾く。
一方、シルフィは湯上がりのタオルを胸に抱え、落ち着かない様子で浴場の隅に立っていた。
(弟子……薬を温めると成分変わるって言ったけど、守ってるかな……
あの子、湯気で前が見えなくなるタイプだし……)
眉間にしわを寄せ、心ここにあらず――だったが。
「……あっ、温泉卵……とろ……」
ふらふらと屋台へ吸い寄せられ、
一口かじった瞬間、目がとろんと緩む。
「美味しい……。世界平和……」
「シルフィさんまで……!」
リオは両手で顔を覆った。
せめて自分だけは真面目でいようと、
リオは旅の行程確認を始めようとする。
「えっと、温泉出たら北の街を経由して――」
「リオくん、次は“はちみつ風呂”行こうよ!」
「おいリオ、ここの肉まんは食っとくべきだ」
「……薬草風呂……弟子に教えてあげたい……」
誰一人、聞いていない。
リオは空を見上げて深くため息をついた。
(……これ、真面目に言うだけ無駄だな……
いや、俺も温泉まんじゅう買おうかな……)
ゆるゆる温泉時間は、勇者パーティーのやる気を
きれいさっぱり溶かしていったのだった。




