第五話 ゆるゆる旅の始まり scene1 出発直後から観光モード全開
ーー勇者一行が王都の城門をくぐった瞬間。
朝日が差し込み、馬車の車輪が石畳を軽く鳴らす。
「魔王討伐の旅」――と立て札には書かれている。
だが、その歩みはどう見ても観光客の速度だった。
最前列を歩くミナが、早々に指差す。
「ねぇ! この道まっすぐ行くと“湯雲の里”だよね?
寄れるよね? 寄るよね??」
ガルドが腕を組んで頷く。
「体を温めてからじゃねーと戦えねぇからな。
いや、戦わねぇけども」
シルフィは地図を持ちながら、そわそわと帰りたげ。
「……湯雲の里、弟子が好きな温泉饅頭あったような……
お土産……買って帰る……?」
リオは「一応」形だけ咳払いしてみせた。
「いや、あの……みんな?
一応、魔王討伐の旅なんだけど……」
ミナとガルドが同時に振り返る。
「わかってるわかってる。
“ついでに魔王城寄る”ってやつでしょ?」
「寄り道の終点が魔王城なんだよな」
完全に旅行のノリだ。
そうこうしているうちに、すれ違う旅人たちが
「お、今年も勇者が温泉に行くんだな」
と、当然のように頷いてくる。
リオは慌てて言い直す。
「あ、いや……これは、その……巡察です。魔王の動向調査で――」
旅人たち
「はいはい、巡察巡察。楽しんできな」
完全に信じられていない。
リオ(心の声)
(……いや、これ……ただの旅行じゃん……)
風は爽やか、仲間は楽しそう、道の先には湯気立つ温泉街。
勇者パーティーの“魔王討伐の旅”は、
出発直後にしてすでに癒しの旅路へと変貌していた。




