scene2側近たちの“起こさない文化”
魔王城の朝は、静けさで満ちていた。
魔力光が白金色に輝く廊下を、数名の魔族の側近たちが歩いていく。
彼らは皆、声を潜めている。
その低い声のトーンは、長年の習慣として身に染み付いていた。
「今日も魔王様、昼まで寝ますよね」
「もちろんです。起きてこられたら逆に困ります」
囁き合う声は、どこか嬉しそうでさえある。
魔王が寝ている時間は、
誰にとっても“仕事が増えない貴重な平和時間”だった。
廊下の大窓の外では、魔族兵たちの訓練場が見える。
本来なら金属のぶつかり合う音が響くはずの場所だ。
だが今日はもちろん、そんな物騒な音はしない。
代わりに、兵士たちが布製の剣をふにゃふにゃと振っている。
「おりゃ……ふにゃっ」
「もっと力入れろよ……って言っても、音が出ると怒られるしな」
隣の兵士がため息をつく。
「本物の剣とか危ないし……。誰か怪我したら、魔王様が起きちゃうし」
「だよな。事故が起きると、書類仕事が増えるんだよ……」
布剣は柔らかく、振るたびに先がぶらりと曲がる。
訓練というより、軽めのストレッチに近い。
城全体が、魔王の安眠を最優先した行動規範に従っていた。
魔王が寝ている——その状態は、
この魔王城にとって、“今日も平和だ”と告げる確かな証。
静けさは、城の壁に染み込んだ習慣であり、
同時に、誰もが心から望む穏やかな時間だった。




