scene7 宰相から“勇者業務マニュアル”が渡される
派手な火花ひとつで終わった任命式の裏で、
リオはそっとステージ脇へ誘導された。
宰相がすでに待っており、
手には妙に薄い冊子を一冊。
「勇者殿、今年のマニュアルです」
差し出されたそれは——
薄い。ありえないほど薄い。
ページ数は……10。
表紙には金文字でこう書かれていた。
『勇者活動報告のつけ方
〜旅に出たフリを極める〜』
リオは冊子を持ったまま固まる。
「タイトルがもう隠す気ゼロ……」
宰相はむしろ誇らしげにうなずいた。
「はい。透明性のある行政を心がけておりますので」
「透明すぎません?」
宰相は気にせず、
真顔のままページをめくりながら説明を続ける。
「明日の午後までに、
“森の入口で記念写真”だけお願いします。
それで、年間の勇者活動としては完了です」
リオは思わず冊子を二度見した。
「仕事、軽っ」
「魔王軍も、毎年“倒されたフリ”のスケジュールがありますので。
双方が無理なく継続できることが重要なんです。
お互いに、持続可能な平和を目指しているわけです」
宰相はやさしく微笑む。
それは、戦いを避けたい者同士の、
静かな共感を滲ませる笑みだった。
リオは手にした薄い冊子を見つめ、
ゆっくり息を吐く。
「……世界、実は優しいのかもしれない」
任命式の喧騒から少し離れたその場所で、
勇者はほんの少しだけ心が軽くなるのを感じた。




