scene2 世界の噂話
昼下がりの村の広場に、旅の吟遊詩人が立ち寄った。
擦り切れたマント、よく鳴る弦楽器。人の集まる気配を嗅ぎつける勘だけは、一流だった。
「皆さま、よろしければ一曲――」
そう前置きして、彼は歌い始める。
勇者は血戦の末、魔王を打ち倒した。
剣は砕け、城は崩れ、世界は炎に包まれた。
だが最後に、魔王は改心し、
勇者の刃は世界を救った――。
歌は劇的で、分かりやすく、少しだけ哀愁を帯びていた。
村人たちは静かに耳を傾け、終わると穏やかに拍手を送る。
誰も「違う」とは言わない。
誰も訂正しない。
広場の端で、ミナはそっと視線を逸らしながら微笑んだ。
何かを思い出すように、けれど何も言わない。
「……まあ」
酒を飲み干したガルドが、低く笑う。
「その方が分かりやすい方がいいだろ」
斧は壁に立てかけられたままだ。
シアンはノートを開き、しばらく考え込んでから、一行だけ書き添えた。
『物語としては、そちらの方が都合がいい』
そして、静かにノートを閉じる。
真実を知っている者は、確かにいる。
この村の人々。
両方の救出隊。
そして、洗濯物を干し、畑を耕している、二人の当事者。
だが、誰もそれを広めようとはしなかった。
血と剣の物語は、語りやすい。
勝者と敗者がいて、終わりがはっきりしている。
平和は、その逆だ。
説明しづらく、物語にしにくく、拍手ももらいにくい。
だから世界は今日も、
少しだけ違う英雄譚を歌い続ける。
その裏で、本当の平和は、
誰にも邪魔されず、静かに続いていた。




