scene4 村の日常に戻る
――平和とは、特別なことが起きない日々のこと
翌朝。
村は、何事もなかったかのように目を覚ました。
鐘も鳴らず、号外も出ず、
英雄の凱旋を告げる旗も立たない。
ただ、いつも通りの朝だった。
勇者:畑仕事
畑では、リオが鍬を振っていた。
鎧は着ていない。
剣も背負っていない。
代わりにあるのは、
土に汚れた手と、少し曲がった背中。
リオ
「……この畝、もう少し広げたほうがいいかな」
隣で村人が頷く。
村人
「そうだな。豆は根を張るからな」
その会話に、
誰も「勇者」という言葉を挟まない。
リオも、それを当然のように受け入れていた。
魔王:家事
村の小さな家では、アザルが鍋をかき混ぜている。
角も翼も隠していないが、
それを気にする者はいない。
火加減を確かめ、味を整え、
静かに頷く。
アザル
「……今日は塩が少し強いな」
エプロン姿の魔王は、
世界を滅ぼす存在には見えなかった。
むしろ――
妙に手際の良い、無口な家主だった。
村人:普通に受け入れる
最初は、ぎこちなさがあった。
だが、人は慣れる生き物だ。
畑を耕し、
井戸で水を汲み、
夕方になればパンを焼く。
その日常の中に、
勇者と魔王が混ざっていった。
村人A
「リオ、鍬借りるぞ」
リオ
「あ、どうぞ!」
村人B
「アザルさん、これ余った野菜」
アザル
「……感謝する」
誰も、立場を思い出そうとしなかった。
思い出す理由が、なかったからだ。
村長オットーの一言
夕暮れ。
畑と家から立ち上る匂いを嗅ぎながら、
村長オットーは帽子を直す。
オットー
「平和ってのは、案外こんなもんかねぇ」
戦いが終わった、という感覚すらない。
ただ、
争う理由が消え、
人がそこにいる。
それだけだった。
勇者は畑を耕し、
魔王は夕飯を作り、
村は、今日も眠りにつく。
世界を揺るがした存在たちは、
誰にも気づかれないまま、
“日常”という名前の平和の中に溶けていった。




