scene2 世界史の記録
「この戦争は、
勇者と魔王が
戦わないことを選んだため、
開戦前に終結した」 小説化
了解しました。
では ② 世界史の記録 を、小説調でまとめます。
② 世界史の記録
――歴史家たちの苦悩と、たった一行の結論
王国歴史院、第三資料庫。
埃をかぶった長机の前で、歴史官たちは頭を抱えていた。
「……で、戦争はいつ始まった?」
「宣戦布告は、形式上は出ています」
「戦闘記録は?」
「ありません」
「犠牲者は?」
「……ゼロです」
沈黙。
誰かが、冗談めかして言った。
「……じゃあ、これは戦争じゃないのでは?」
即座に却下された。
「いや、“戦争だった”という認識は、当時の記録に残っている」
「双方が軍を動かし、民が怯え、歌が生まれ、噂が広がった」
「……何も起きていないが、“起きると信じられていた”」
それは、歴史家にとって最悪の事例だった。
事実が少なすぎる。
感情と誤解だけが、山ほどある。
「勇者は?」
「魔王と暮らしています」
「……なぜ?」
「仲が良いから、としか」
ペンを持つ手が止まる。
英雄譚としても。
戦記としても。
政治史としても。
どれにも当てはまらない。
数日後。
何度も書き直された草稿の末、
歴史書に記されたのは、たった一節だった。
『この戦争は、
勇者と魔王が
戦わないことを選んだため、
開戦前に終結した』
解説も、脚注も、英雄の名誉称号もない。
「なぜそうなったのか」は、別巻送り。
「どうして止められなかったのか」は、研究対象。
だが、事実だけは、消せなかった。
剣を振るうはずだった勇者は、剣を置いた。
世界を征服すると恐れられた魔王は、畑を耕した。
その選択が、世界を止めた。
後世の学生は、この一文を読んで首を傾げる。
「……え? それだけ?」
教師は、いつも同じ答えを返す。
「それだけだ。
だが――
それ以上、書けることが何もなかった」
戦争は、始まらなかった。
だから、英雄譚も生まれなかった。
代わりに残ったのは、
“選ばれなかった戦い”の記録だけだった。




