第二十八話 茶番の平和が本当の平和に ― 戦わなかった戦争 scene1 名目上の終戦
正式な終戦条約は、存在しなかった。
王国にも、魔族にも、
「この戦争をどう終わらせるか」を決める準備はあった。
だが――
**「なぜ続けるのか」**を説明する言葉が、消えてしまった。
王国側の会議室。
将軍は地図を前に、黙り込んでいた。
赤く塗られていた戦線は、いつの間にか意味を失っている。
「……で、魔王は?」
「畑仕事をしているそうです」
「勇者は?」
「村の子供に読み書きを教えていると……」
沈黙。
誰も、怒らない。
誰も、驚かない。
ただ、困る。
「……討つ理由が、ないな」
誰かが、ぽつりと言った。
反論は、なかった。
一方、魔界。
魔族評議会でも、似たような空気が流れていた。
「魔王様は、征服を?」
「しておられません」
「人間界を?」
「……畑を?」
老魔族たちは、深くため息をつく。
「……勝利宣言も、敗北宣言も、出せぬな」
「戦争とは、理由があってこそ始まり、
理由があってこそ終わるものだ」
「だが……理由が消えた」
結論は、曖昧だった。
いや、曖昧にするしかなかった。
通達は、こうまとめられた。
――
「当面、敵対行動を確認できないため、
軍事行動を停止する」
条約はない。
署名もない。
儀式もない。
ただ、剣を振る理由が、どこにもなかった。
後に歴史家たちは、頭を抱えることになる。
――誰が終戦を宣言したのか。
――いつ、戦争は終わったのか。
――勝者は、誰だったのか。
記録は、こう結論づけるしかなかった。
「この戦争は、理由消失により終結した」
戦わなかった戦争。
勝者のいない終戦。
だが――
その日から、
誰も死ななくなった。
それだけは、確かだった。




