scene5 “まあいいんじゃない?”という空気
数日後。
小さな村に、場違いなほど立派な人々が集まった。
王国側からは、王印付きの外套を羽織った伝令。
魔族側からは、角と翼を隠しきれていない使者。
どちらも、
「事態を確認し、適切な対応をする」
という名目で来ている。
――だが。
村に着いた瞬間、全員が言葉を失った。
勇者リオは、村の子供と木剣で遊んでいる。
魔王アザルは、畑で村人と土を耕している。
敵意は、ない。
緊張も、ない。
戦争の匂いが、どこにもない。
王国伝令は、咳払いをして口を開く。
「……勇者殿。
魔王殿。
これは……どういう状況で?」
リオは振り返り、少し困ったように笑った。
「えっと……普通に暮らしてます」
アザルは、土のついた手を軽く払って言う。
「争いは終わった。
我も、ここを気に入っている」
伝令は、書類を見下ろす。
“討伐”
“制圧”
“終結条件”
どの項目にも、
この状況に当てはまる言葉がない。
一方、魔族側の使者も腕を組む。
「魔王様が人間に囚われている様子もなく……
むしろ、健康そうで……」
ちら、とウーナの鍋を見る。
湯気が立っている。
沈黙。
誰かが言い出すのを、全員が待っている。
やがて、王国伝令が小さく言った。
「……争っていないなら……」
魔族の使者が、続ける。
「……無理に争う必要も、ないのでは……」
ガルドが肩をすくめる。
「殴る理由、ねぇしな」
ミナがうなずく。
「平和なら……それで」
ラトは、ちらりとアザルを見る。
アザルは、静かに畑を見渡している。
シアンが、ぽつりとまとめた。
「誰も困っていない。
それが、最大の事実だ」
そして――
誰かが言った。
「……まあ」
誰かが続けた。
「……いいんじゃない?」
明確な決議も、署名もない。
だが、その場にいた全員が、
同じ空気を吸っていた。
「戦わないことにした」空気。
こうして、
王国と魔族の戦争は、
剣を交えることなく終わった。
後に歴史書は、困ったようにこう記す。
――
「この戦争は、
“まあいいんじゃない?”
という空気によって終結した」
誰も英雄にならず、
誰も敗者にならず。
ただ、平和だけが残った。




