scene4 周囲の反応
魔王の言葉が落ちたあと。
誰も、すぐには動けなかった。
怒号も、剣戟も、魔法陣もない。
ただ、
戦う理由だけが、静かに消えていた。
最初に反応したのは、戦士だった。
ガルドは、構えていた斧を見下ろす。
それを持ち上げる理由を、
本気で探して――見つからなかった。
「……殴る理由、なくなったな」
ごとん、と。
斧が地面に置かれる。
それは降伏でも敗北でもない。
ただの、納得だった。
次に息を吐いたのは、聖女。
ミナは、固く握っていた手をほどく。
聖女のオーラが、ふっと消える。
「……生きてるなら」
「それで、いいわ……」
怒る理由も、
叱る理由も、
泣く理由も。
すべてが、安心に溶けた。
ラトは、しばらく言葉を失っていた。
兄を守るために走り続けてきた足が、
ようやく止まる。
「兄貴が……」
「……幸せなら……」
それ以上、言えなかった。
嫉妬も、怒りも、
全部、胸の奥で静かにほどけていく。
そして、場を完全に終わらせたのは――
老魔族だった。
ウーナは、当然のように一歩前に出て、
鍋の蓋を開ける。
湯気と、いい匂いが広がる。
「じゃあ、飯を食べな」
誰も、反論しなかった。
それが、
この場で一番正しい提案だったからだ。
最後に、シアンが小さく笑う。
ノートを閉じ、つぶやく。
「……世界史が壊れたな」
一拍置いて、
「最高だ」
剣も、魔法も、
覇権も、正義も。
すべてを押しのけて、
日常が勝った瞬間だった。




