scene2 勇者リオの一言が、すべてを終わらせる
誰もが言葉を探している中で、
いちばん立場の重い人物が、いちばん素朴に口を開いた。
リオだった。
洗濯物を抱えたまま、
広場の真ん中で、少し困ったように頭をかく。
「えっと……」
視線が集まる。
勇者パーティ。
魔族の救出隊。
村人。
そして、魔王。
世界が、勇者の次の言葉を待っていた。
「争うつもりは……もう、ありません」
あまりにも率直で、
あまりにも静かな宣言だった。
一瞬、風が止まったように感じられた。
ガルドが、思わず聞き返す。
「……は?」
ミナも、瞬きを忘れている。
「リ、リオ……?」
だが、リオは続けた。
誰かを説得する口調でもなく、
正義を掲げる声でもなく。
ただ、自分の気持ちを確認するように。
「魔王は……悪い人じゃなかったです」
その瞬間、ラトの耳がぴくりと動いた。
アザルは、何も言わない。
だが、ほんのわずかに目を細める。
「戦った理由も、もう……なくなりました」
剣を抜く理由。
命を賭ける理由。
それらが、いつの間にか消えていた。
リオは、最後に視線を村へ向ける。
夕餉の匂い。
家々の灯り。
行き交う村人たち。
そして、隣でエプロン姿の魔王。
「……この村が、好きなんです」
その一言で、
空気が完全に変わった。
誰も反論できなかった。
それは勇者のわがままではなく、
戦争を続ける理由がない者の、
正直すぎる結論だったからだ。
シアンは、ノートを閉じ、深く息を吐く。
「なるほど……」
「世界を救う勇者とは、必ずしも剣を振る者ではない、と」
ミナは、ゆっくりと肩の力を抜いた。
「……あなたが、そう言うなら」
ガルドは天を仰ぐ。
「くそ……殴る理由がねぇ」
ラトは、まだ混乱している。
「兄貴……?」
「……この人間、敵じゃないのか?」
アザルは、そこで初めて口を開いた。
「……うむ」
短い肯定。
だが、それは世界にとって十分すぎる答えだった。
こうして、
誰も血を流さず、
誰も勝利を誇らず、
勇者の率直すぎる一言によって、
戦争は終わりを迎えようとしていた。




