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何もしたくない魔王と勇者のスローライフ やる気のない世界の中心で  作者: 南蛇井


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scene6 全員の誤解が同時に崩壊

最初に壊れたのは、沈黙だった。


 次に壊れたのは――

 全員の「前提」。


 ミナは、数秒間、完全に固まっていた。


 聖女としての構えも、緊張も、使命感も、

 すべてが行き場を失い、身体だけが取り残される。


「……」


 目の前には、洗濯物を抱えた勇者。

 エプロン姿で鍋を気にしている魔王。


 生きている。

 怪我もない。

 疲弊の気配もない。


 ――元気すぎる。


「……生きてる……元気……?」


 ようやく絞り出した声は、震えていた。


 リオが困ったように笑う。


「うん。元気だけど……?」


 その瞬間。


 安堵が、胸いっぱいに広がり――

 直後、行き場を失った感情が、怒りに変わる。


「……じゃあ……」


 ミナの額に、青筋が浮かんだ。


「私たちが、どれだけ……!」


 言葉にならない。

 怒る理由が多すぎて、整理できない。


 その隣で。


 ガルドの手から、斧が落ちた。


 どさっ、と乾いた音。


「……」


 戦士としての本能が、完全に機能停止している。


「……酒場の方が、よっぽど危険だったな」


 誰に向けたでもない呟き。


 一方、魔族側。


 ラトは、完全に止まっていた。


 視線はアザルに固定。

 耳も尻尾も、微動だにしない。


「……兄貴……?」


 声は出た。

 だが、脳がまだ現実を受け入れていない。


 囲まれていない。

 縛られていない。

 心も折れていない。


 むしろ――


 落ち着きすぎている。


 アザルは、ラトを見て、ゆっくり頷いた。


「うむ。元気だ」


 それだけ。


 それだけで、ラトの膝が崩れた。


「……そ、そう……」


 嫉妬も、怒りも、覚悟も、

 全部、使い道を失って床に散らばる。


 最後に、動いたのはウーナだった。


 状況把握?

 感情整理?


 そんなものは、後回し。


 ウーナは一歩前に出て、

 迷いなく鍋を差し出した。


「じゃあ、まずこれ飲みな」


 湯気が立つ。


 滋養強化、魔王仕様。


「話はそれからだよ」


 アザルは、少し驚き――そして素直に受け取った。


「……ありがたい」


 リオが、洗濯物を抱えたまま言う。


「えっと……みんな、どうしてここに?」


 その問いに、

 誰一人、即答できなかった。


 救出。

 戦争。

 世界の命運。


 どれも、この村の夕暮れには似合わない。


 こうして――


 世界で一番平和な

 **“救出失敗”**が、静かに成立した。

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