scene2 魔王救出隊、反対側から同時到着
村の反対側――畑と森の境目から、二つの影が現れた。
最初に足を踏み入れたのは、獣人兵ラトだった。
低く構えた姿勢のまま、耳を張り、鼻をひくつかせる。
「……人間が多い」
その一言と同時に、ラトの全身がぴりりと張り詰めた。
村人の姿を視界に捉えるたび、牙がわずかに覗く。
子どもが一人、道端で石を蹴って遊んでいるのを見て、ラトは一歩前に出た。
「……近づくな」
完全に威嚇だった。
村人は何が起きたのか分からず、目を丸くする。
平和な村に、突然“戦闘態勢の魔族”が現れたのだから無理もない。
「兄貴を返せ……!」
ラトの声は、怒りと焦りが混じっていた。
誰に向けた言葉かも分からないまま、半ば叫びに近い。
「人間ども……兄貴を、どこへやった……!」
空気が、ほんの一瞬だけ凍る。
だが、その張り詰めた空気を、まったく別の存在が軽々と破った。
「はいはい、物騒だねぇ」
ラトの背後から、鍋を両手で掲げた老魔族ウーナが、悠然と歩いてくる。
大きな鍋からは、湯気が立ち上っていた。
滋養強化スープ――魔王専用のそれだ。
「晩ごはん前に失礼するよ」
堂々とした入村宣言だった。
村人たちは、さらに混乱する。
威嚇する獣人。
鍋を持って微笑む老魔族。
どちらが脅威なのか、判断がつかない。
ウーナは周囲をぐるりと見回し、満足そうに頷く。
「……火も煙も上がってない。
ちゃんとした村だねぇ」
そして、ラトの肩をぽんと叩く。
「ほら、そんなに歯をむき出しにするんじゃないよ。
兄貴が見たら、心配するだろう?」
「……でも」
ラトは唸りながらも、ほんの少しだけ構えを緩めた。
「兄貴は……人間に囲まれてるかもしれないんだ」
「囲まれてるなら、なおさらだ」
ウーナは鍋の蓋を確認し、にっこり笑う。
「腹を空かせてるに決まってる」
その理屈は、誰にも止められなかった。
こうして――
勇者救出隊が村の正面から、
魔王救出隊が村の裏手から。
互いの存在をまだ知らぬまま、
二つの“救出”は、同じ村に足を踏み入れた。
平和な夕暮れの村に、
静かに、しかし確実に――嵐の気配が集まり始めていた。




