第二十六話 村で対面 ― 全員集合のカオス開幕 scene1 勇者救出隊、村に到着
村の入り口に足を踏み入れた瞬間、ミナは確信した。
「……ここに、いるはず……!」
夕暮れの空気は穏やかで、風に乗って煮込み料理の匂いが漂ってくる。
だがそののどかさとは裏腹に、聖女の背筋には冷たい緊張が走っていた。
ミナの胸元で、聖印がほのかに淡い光を放つ。
意識せずとも、彼女の聖女オーラが滲み出ていた。
(リオ……無理してない?
ちゃんと……生きてるわよね……)
その横で、ガルドはすでに臨戦態勢だった。
巨大な斧を肩から下ろし、地面に構える。
「……魔王がどこだ」
低く、唸るような声。
村の平和な風景とまるで噛み合わない殺気が、彼の周囲だけ空気を歪める。
「隠れてようが、出てこなかろうが関係ねぇ。
ここにいるなら――」
ガルドは斧の柄を強く握りしめた。
その二人から一歩離れ、シアンは静かに周囲を見渡していた。
家屋の配置、道の踏み固め具合、村人の歩き方。
視線は鋭いが、表情は妙に楽しそうだった。
「……戦闘痕、ゼロ」
しゃがみ込み、地面を指先でなぞる。
「破壊された建物もない。血痕もない。
住民の警戒反応も、ほぼ皆無だ」
シアンは顔を上げ、村の奥を見据えた。
「異常だな」
その言葉に、ミナが唇を噛む。
「……静かすぎる、ということ?」
「そうだ」
シアンは頷き、ノートを開きながら続ける。
「勇者が囚われ、魔王が勝利しているなら――
もっと恐怖がある。
あるいは、支配の痕跡があるはずだ」
ガルドが眉をひそめる。
「じゃあ何だってんだよ」
シアンはペンを走らせながら、ぽつりと答えた。
「……“何も起きていない”という事実そのものが、
最も説明のつかない状況、ということさ」
夕餉の匂いが、再び風に乗って三人の間を通り抜ける。
笑い声。
食器の音。
犬の鳴き声。
戦場に来たはずの彼らを迎えたのは、あまりにも平和な村の日常だった。
だが三人とも、足を止めなかった。
それぞれの確信と誤解を胸に抱えたまま、
勇者救出隊は、村の奥へと踏み込んでいった。




