scene3 静けさの違和感 共通要素
村に近づくにつれて、空気が変わった。
剣戟の気配はない。
魔力の乱れもない。
焦げた匂いも、血の臭いも、どこにもない。
代わりに漂ってくるのは、夕餉の匂いだった。
焼いたパンと煮込みの香り。
どこかの家から聞こえる、犬の鳴き声。
——あまりにも、普通だ。
勇者救出隊
ミナが足を止め、眉をひそめる。
「……静かすぎない?」
彼女の想像では、もっとこう、
悲鳴や怒号が響き、結界が張られ、
“助けを待つ勇者の気配”があるはずだった。
ガルドは斧を担ぎ直し、前を見据える。
「嵐の前ってやつだ」
理由はそれで十分だった。
静けさは罠であり、油断は死に直結する。
——そういう世界を、彼は生きてきた。
シアンだけが、少し楽しそうに周囲を見回す。
「“異常がない”という異常だな」
彼のノートには、すでに書き込みが増えている。
――戦闘痕跡なし
――住民の生活音あり
――警戒反応、過剰
だが、三人とも足は止めなかった。
疑問はあっても、引き返す理由にはならない。
魔王救出隊
別の路地、別の入口。
ラトは鼻をひくつかせ、首を傾げる。
「……戦闘の匂いがしない」
血も、焦げも、怒りの魔力もない。
あるのは、温かい食事と家畜の匂い。
ウーナは歩調を緩め、穏やかに頷く。
「勝った後なんだろうねぇ」
その一言で、すべてが片付いた。
戦いが終わったから静か。
魔王が強かったから、被害も少ない。
——そう思えば、辻褄は合う。
ラトもそれ以上、考えなかった。
「……そうか」
心配は消えていない。
だが疑問は、“迎えに行く理由”を否定しなかった。
こうして両陣営は、
同じ静けさを見て、
まったく違う不安を抱えながら、
同じ村の中へ足を踏み入れていく。
誰もが違和感に気づいている。
誰もが、それを都合よく解釈している。
そして誰も、
この静けさが「異変の結果」ではなく、
ただの日常であることに、
まだ辿り着いていなかった。




