scene2 同時セリフ
丘の向こうに見える村の灯りは、
勇者救出隊から見ても、魔王救出隊から見ても、同じ色で揺れていた。
距離は違う。
道も違う。
だが、向いている方向だけは同じだった。
勇者救出隊
ミナは胸の前で手を握りしめ、灯りを見つめる。
「リオ……待ってて」
それは祈りであり、宣言だった。
彼女の中ではすでに、勇者は“助けを必要としている存在”として確定している。
隣でガルドが斧の柄を叩く。
「今行くぞ!」
理由はいらない。
勝って帰らない、それだけで十分だった。
少し後ろで、シアンが小さく呟く。
「観察対象は、逃がさない」
声は低く、静かで、妙に楽しげだ。
彼にとってこの村は、事件の終着点ではない。
本編の始まりだった。
魔王救出隊
同じ頃、別の街道で。
ラトは拳を握りしめ、灯りを睨むように見つめる。
「兄貴……待ってろ」
奪われたかもしれない。
無理をしているに違いない。
その前提は、もう疑う余地がなかった。
ウーナは一歩遅れて歩きながら、優しく声をかける。
「今行くからねぇ」
その声音は穏やかで、戦場へ向かう者のものではない。
ただ、鍋を抱えた“迎えに行く人”の声だった。
こうして両陣営は、ほぼ同時に、同じ構文の言葉を口にした。
——待ってて。
——今行く。
誰一人として、自分たちが間違っているとは思っていない。
誰一人として、相手が“平和に暮らしている”可能性を考えていない。
勇者は囚われている。
魔王は奪われている。
そう信じることに、何の疑問もなかった。
——だが、その村では。
勇者リオと魔王アザルが、
どちらも救出など必要とせず、
静かで穏やかな時間を過ごしている。
この夜、
助けに来る者たちだけが、
世界でいちばん切迫していた。
そして、
その“善意と誤解の衝突”は、
もうすぐ村の中で、一斉に姿を現すことになる。




