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何もしたくない魔王と勇者のスローライフ やる気のない世界の中心で  作者: 南蛇井


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scene4 セロの歌② ― 子供の一言が燃料投下

村の手前に、小さな集落があった。

 畑と畑の間を走る土の道。

 木陰では、数人の子供たちが石を並べたり、棒を振り回したりして遊んでいる。


「ねーねー!」


 ひとりの子供が、通りがかりの大人たちに向かって声を上げた。


「勇者が勝ったんだって!」


 その言葉は、軽く、無邪気で、何の重みもない。

 ただ“聞いた噂”を、そのまま口にしただけだった。


 だが――


 勇者救出隊の足が、同時に止まる。


「だろ?」


 ガルドが即答する。

 確信に満ちた声だった。


「だから言ったじゃねぇか。

 やっぱリオは勝ってるんだよ」


 ミナは子供の顔を見つめ、ほんの一瞬だけ微笑んでから、表情を引き締める。


「……でもね。

 勝ったからって、無事とは限らないのよ」


「そうそう」


 シアンが指を一本立てる。


「“勝利”と“帰還”は、まったく別の概念だ。

 戦術的勝利、戦略的勝利、精神的勝利――定義はいくらでもある」


 子供はぽかんと口を開ける。


「……むずかしい」


「だろうね」


 その少し離れた場所。


 同じ言葉が、まったく逆の爆発を引き起こしていた。


「嘘だ!!」


 ラトの叫びに、子供がびくっと跳ねる。


「えっ!?」


「勇者が勝っただと!?

 そんな話、誰が信じるか!」


 牙が覗き、尻尾がばさりと揺れる。


「兄貴が……アザル様が負けるわけないだろ……!」


「こらこら」


 ウーナがすぐに間に入り、ラトの背中をぽんぽんと叩く。


「子供に怒鳴るもんじゃないよ。

 噂を言っただけさ」


「……」


 ラトは子供を見て、わずかに視線を逸らす。


「……悪い」


 子供は首を振った。


「いいよ!

 おじちゃん、こわかったけど!」


 その言葉に、ラトの肩が小さく落ちる。


「……こわくない」


 ウーナは苦笑し、子供たちに小袋の干し果実を渡す。


「おやつだよ。

 元気に遊びな」


「わーい!」


 子供たちは歓声を上げ、また噂話を次の遊びへと放り込んでいく。


 彼らにとって、それはただの“面白い話”。

 真実でも、責任でもない。


 同じ一言。


 勇者救出隊にとっては「希望の補強」。

 魔王救出隊にとっては「怒りの燃料」。


 子供は、ただの噂の受信機だ。


 発信している自覚も、

 誰かの運命を揺らしている意識も、ない。


 そして両陣営は、再び歩き出す。


 ほんの数百メートル先に、同じ村があるとも知らずに。

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