scene3 勢いだけで出発宣言
ラトは弾かれたように立ち上がった。
椅子が派手な音を立てて倒れるが、気にも留めない。
ラト
「決めた。迎えに行く」
詰所の空気が、一瞬止まる。
同僚魔族
「……は? 誰を?」
ラト
「兄貴だよ!!」
勢いのまま吐き出された言葉に、周囲が目を瞬かせる。
同僚魔族
「……魔王様?」
ラト
「そうだよ!!
人間に囲まれてるかもしれないだろ!!」
同僚魔族
「え、じゃあ……敵討ち?」
ラト
「違う!!」
間髪入れずに否定し、しかし次の瞬間、言葉に詰まる。
ラト
「……いや、ちょっと違わないけど!!」
自分でも何を言っているのか分からない。
嫉妬なのか、心配なのか、怒りなのか――全部だ。
同僚魔族
「どっちなんだよ……」
ラトは答えず、すでに武具棚に向かっている。
軽装の鎧を引っ張り出し、腰に短剣を差し、荷袋を肩に掛ける。
同僚魔族
「おい、正式な命令は――」
ラト
「そんなの待ってられるか!」
振り返ったラトの目は、妙に真剣だった。
ラト
「兄貴が無理してたら嫌だし、
もし本当に人間にいいようにされてたら……」
一瞬、歯を食いしばる。
ラト
「……俺が止める」
同僚魔族
「止めるって、どうやって?」
ラト
「知らない!!」
叫ぶように言い切る。
ラト
「でも行かなきゃ落ち着かない!!
だから行く!!」
理屈も計画もない。
あるのは、兄を想う衝動だけ。
ラトはそのまま扉へ向かい、勢いよく開け放つ。
同僚魔族
「ちょ、ちょっと待てラト――!」
返事はない。
すでにラトの背中は、廊下の向こうへ消えかけていた。
――こうして、
嫉妬と心配と勢いだけで構成された“魔王救出隊(単独)候補”が、
人知れず人間界へ向かって走り出した。
なお、本人はまだ
「救出なのか牽制なのか説教なのか」
自分でもよく分かっていなかった。




