scene4 上層部に報告しようとして断念
ツヴァイは涙を拭う間もなく、
そのまま魔族評議会の間へと駆け込んだ。
巨大な黒曜石の扉が開かれると、
そこでは老魔族たちが豪奢な机を囲み、
なぜか祝宴の準備について議論していた。
老魔族A
「杯は黒曜石製にするか、血晶にするか……」
老魔族B
「やはり“魔王勝利”の宴だ、派手でなくてはな」
老魔族C
「勇者を支配された記念日として後世に――」
その空気を切り裂くように、ツヴァイが叫ぶ。
ツヴァイ
「アザル様が危険で――!!」
一瞬、沈黙。
……そして次の瞬間、完全に無視された。
老魔族A
「今忙しい!」
老魔族B
「魔王様は勇者を支配しておられるのだ!
危険などあるはずがない!」
老魔族C
「祝宴の準備で手一杯だ。後にせよ」
ツヴァイ
「え? あの、危機なんですが……!
洗脳とか、拘束とか、その……尊厳とか……!」
老魔族A
「若者は想像力が豊かすぎる」
老魔族B
「勇者を屈服させた魔王様を疑うとは不敬だぞ」
老魔族C
「それより酒樽の数が足りん」
話は完全に別方向へ流れていく。
ツヴァイは口を開いたまま、
しばらくその場に立ち尽くした。
ツヴァイ
「……あ、あの……聞いて……?」
誰一人、視線を向けない。
――完全スルーだった。
ツヴァイは拳を握りしめ、歯を食いしばる。
ツヴァイ(心の声)
「この……愚かな評議会では駄目だ……!
誰も……誰もアザル様の危機を信じない……!!」
涙はもう出なかった。
代わりに、胸の奥で忠誠心が静かに燃え上がる。
――ならば、自分が動くしかない。
ツヴァイは踵を返し、
誰にも見向きもされないまま、
評議会の間を後にした。
その背中には、
“主君を救う”と信じ切った、
あまりにも真っ直ぐな覚悟だけが宿っていた。




